日本から遠く離れたアリゾナの地で、田臥勇太は、ボールを追っていた。
標高7000フィート(約2100メートル)の高地。彼は、息を切らす。
「出だし、きついですね。アップとか、結構息上がります」
しかし、そっと覗き見たチームメートの表情を見て安心した。
「みんなも上がってました(笑)」
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Barry Gossage/NBAE Photos
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とはいえ――ここは高地。サンズへ練習場を提供した北アリゾナ大学は、高地トレーニングの場としても有名。マラソン選手を始め、水泳選手らもここで合宿することが多いのだという。田臥は言った。
「だから、キャンプはここに来てやってるんですかね?」
軽い高山病を訴えるチームメートもおり、環境に慣れるまで決してコンディショニングは楽ではない。しかし、ひと夏をいい状態で過ごした彼には、余裕があった。「その分、普通のところに行ったら楽になるかもしれないし、そういう意味では、じゃんじゃん自分をここで追い込んで行きたい」
キャンプ2日目の午前練習が終わったあと、田臥はクールダウンをしながら、インタビューに応じた。
――アメリカに渡ったのが、9月上旬。それからは、どんな風に過ごしてきたの?
田臥 フェニックスにあるチームの練習施設で、ワークアウトをしていただけです。チームメートと一緒に。
――それから、ニューヨークでルーキー研修会。
田臥 そうですね。それでもう、1ヶ月経ちました。
――昨日は誕生日だったね。何か特別なお祝いでも?
田臥 いや、チームで食事だったんで、ケーキもらって、みんなに「ハッピーバースデイ」を歌ってもらいました(笑)
――それは、君を驚かせようという企画だったの?
田臥 いや、そうじゃないと思います。みんな知らなかったと思うんですけど、食事のときにコーチがみんなに言ってくれて。
――そのコーチ(マイク ダントーニ)は、明るいよね。
田臥 彼は本当にフレンドリーで、メリハリがあっていいですよね。やるときは厳しくて、終わってからはそうやって楽しくというか、僕はそういうタイプの人が好きなんで。だからこのチームは、ヘッドコーチを始め、みんながそういう感じなんですよ。
――プレイもアップテンポなスタイルを好む。
田臥 そうですね。そうじゃなきゃ、僕みたいな小さいガードは獲ってくれないだろうし、だからできる限り、自分が貢献できることだけを考えてます。
――まだ2日目だけど、去年に比べればスムーズにキャンプに入っていけたのかな? 流れとかもわかっているだろうし。
田臥 そうですね。サマーリーグのときからサンズでやってるんで、例えばセットオフェンスなんかは、サマーリーグと一緒なんでね、そういう面でもラッキーだったなあって。今はこうレビューというか、おさらいっていう感覚でやってます。
――ある意味、去年と同じスタートラインに立ったわけだけど、去年見えなかったけど、今年見えていることってある?
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スティーブ ナッシュからアドバイスを受ける田臥。NBAレベルへの適応を目指す田臥は、こうした環境の中で日々進歩を続けている。
Jeramie McPeek/Suns.com
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――挑戦はある意味リスク。マリナーズのイチローもそんなことを話していたけど、自分はチャレンジとリスクをどう考えてる?
田臥 僕はイチローさんには到底及ばないし、レベルが違うとは思うんですけど、こうやってアメリカで日本人としてやっているっていうのは同じだと思うんで、そういう面では、それ自体が僕には大きなチャレンジだと思ってます…。
――本来、チャレンジに差はない。人それぞれのハードルが違う。
田臥 そうですね。でも、例えばメジャーで活躍している人たちは、チームから欲しいっていわれてこっちに来ている。自分の場合は、プレイを見せて認めてもらわないとダメだから、そういう立場は全然違う。そこは違った比較になっちゃうと思うんです。ただ、今回の場合はサマーリーグでプレイして、それを見てくれて、今、こうやって呼ばれたわけですから、そういうところは素直にうれしく思って、自信にして…うん、このチームで生き残れることを考えたいと思います。
――精神的、体力的…今は、ギリギリまで自分を追い込むイメージでやってるのかな?
田臥 いや、そんなことないですよ。それこそ去年の経験があるんで、気持ち的には余裕があります。もちろんコート上では自分ができることを、毎日精一杯、全力でやってますけど、一杯一杯いという状況ではないし、逆にそうだとこれからやっていけないんで、そういうのは…昨日(スティーブ)ナッシュからも言われたことの一つなんですけど、「まずは、このレベルにアジェストしなきゃいけない」と。「プレイどうこうとかじゃなくて、まずこのレベルのバスケットにアジャストしていくことが、君にとって今必要なことだ」と、言われました。だから練習中から「ミスを恐れずに、やっていったほうがいい」ともアドバイスをもらったので、凄いその通りだなあって感じました。
――自分のモチベーションを高めるときは、正のエネルギーを使うタイプ? それとも負のエネルギーを使うタイプ? 例えば悪く言われたとき、それを力に替えられるかどうか。
田臥 僕はあれですね、やってきたことがすべてだと思っているので、プラスαの部分というのは、どこかで出るかもしれないですけど、そういうのには期待しないで、今までやってきたことを出すだけだと思ってます。
――つまり、経験が自分を支えている。
田臥 そうですね。僕のモットーじゃないですけど、こだわっているところは結果とかじゃなくて、過程。一日一日、自分の中で充実してやれるか――満足じゃなくて、充実させること。それなら、もし結果がダメでも、やってきたことが間違っていないと自分で思えるなら、後悔しないと思うし、後悔することだけが一番嫌いなんで、だから結果とかじゃなくて――。
――それは、自分自身を信頼しないと出来ない考え方。
田臥 そうですね。何もかも、やってきたことは自分自身の問題ですから。サボろうと思えばサボれますし、でも、みんな(チームメート)を見てても、ああやってスタメンでやっている連中でも、最後までシューティングを残ってやってるじゃないですか。やっぱり、毎日のつみ重ねが結局試合でも出ると思うので、みんなと同じように、自分の中で一生懸命やっていると実感できること――それが自信に繋がると思います。
――それはある意味、バスケットをやっている子供たちへのメッセージ。
田臥 そうですね。ただ、メッセージということになれば、やっぱりアメリカへ行けばいいとかっていう問題じゃなくて、僕は日本で、小、中、高ってバスケットをやったきたんですけど、日本で教わった部分にも大切なことってたくさんあるし、僕はそれを誇りに思っているんですよ。だから「アメリカに来ればなんとかなる」――そういう風に勘違いして欲しくないというか、学べることは、日本でも学べるし、例えば挨拶なんかもそうだと思うんですけど、バスケットそのものにしても、ファンダメンタルな部分というのは、小、中、高で教わる大事な部分だと思うんですよね。そういうのを、僕は今活かしてやってるわけで、そういうところは伝えたい部分でもあります。
――今は、もちろん選手でもあるわけだけど、同時に日本のバスケットを担っていかなければならない立場でもある。そう考えたとき、これはもっと将来的なことなのかもしれないけど、なにか日本に恩返しできるようなことって考えたりする? 例えばナッシュなんかは、地元(バンクーバー)のジュニア バスケットボールリーグのスポンサーでもある。そのリーグというのは元々、バンクーバー グリズリーズの傘下にあったんだけど、チームがメンフィスに移ってから路頭に迷った。それを救ったのが、ナッシュだった。
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“チームの中での自分の生かし方”を証明するため、田臥はプレシーズンゲームへ挑む。
Jeramie McPeek/Suns.com
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――そこに大きなポイントがある。日本では今、田臥勇太という人間を通して、多くの人がバスケットに目を向け始めている。それが結果的に、底辺というか、裾野を広げることにもなる。
田臥 僕は、そういうのも大事にしたいと思います。自分がそういう存在であるということ、つまりこの場で、バスケットをしている…それは、僕にしか出来ないことですから、そういうプラスな面というか、貴重な経験をいろんな人にしてもらいたいと思うし、そういった面じゃやはり、なんらかの形で(貢献)できればと思いますね。
――NBA選手になりたい…そう単に憧れていた時代がもちろん昔にあって、でも、それが心の底から突き上げられるような衝動に変わった――暗い中に光が見え始めたきっかけ、自分にもできる、やれる、そう思えるようになったことってある?
田臥 やっぱりトヨタ(トヨタ自動車アルバルク)で1年やって…、そこで1年が終わって、気持ちが変わった瞬間。もうあそこで腹くくって、挑戦を止めてまた戻ってくるなんて絶対に出来ないし、またしたくないなと思ったんで、あのタイミングでしょうね。腹、くくりました、あそこで(笑)。今までは、高校卒業してフープサミットとかに出ても、やってみたいとは思ったけど、どこかで憧れだったし、「いや、やっぱり無理だ」っていう、複雑な変化が心の中にあって。だけどトヨタで1年やって、そのシーズン後にいろいろ自分の中で考えて、で、決めたとき、もう後戻りは出来ないなあって。もうあれが、本当にとことん、NBAにこだわりたいと思った瞬間でした。
――その時、恐怖感、怖いという感情は?
田臥 まったくなかったですね。もう、なんだろう、失う物がないというか、自分には。そういう状態だったんで、前に進むだけだという。何も背負う物もなかったし、だから気持ち的にはもう、前向きでした。
誕生日の話に戻る。
パーティの席上で、チームメートは日本語で誕生日の歌を歌えと、田臥に迫った。
しかし、「ハッピーバースデイ」の歌は、日本語でも「ハッピーバースディ〜」。
田臥は、苦笑を浮かべて言った。
「そんなのはない」
でも、「みんな信じてくれなくて」。
そんな話をしているところを、アシスタントコーチの一人、アルビン ジェントリーが通り過ぎてゆく。
"Yuta, sing Happy Birthday."
田臥は、相好を崩した。
「こんな感じで、楽しくやってます」





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